よく人と話をしていて気になる言葉がある。それは
「これは私の問題ではない」
だ。
例えば、今週に起こった話。
我が地域では、毎週決まった曜日に分別ゴミを出すようになり、今回は、紙類、プラスチック類、そして普通のゴミを出すようになっていた。
つまり家の前に3種類のゴミ箱が並ぶ。
紙類→緑(もしくは青)
プラスチック類→黄色
普通のゴミ→黒
というように、色分けされたがゴミ箱を当日までに家の前に並べておくと、翌朝回収車がやって来て回収して回るのだ。
さて、その日は角の道に駐車された車の為、回収車が路地に入れなくて、運転手が怒っていた。怒りに任せて、大きなクラクションを鳴らし車の持ち主に毒吐きまくり、仲間と共に、紙類の緑色のゴミ箱を、角にある私の家の前に集めて回っていた。
怒り心頭の運転手は車のナンバープレートを撮影して、警察に送っていた。
警察が車を回収する迄の間、他のゴミ回収も似たような問題が起こるわけで、回収車は反対側の路地からバックで入れるようにしたり、ゴミ箱の中身だけを取り出して回収車に投げ入れて帰っていった。
路地一帯の緑色のゴミ箱は、私の家の前に集まり、回収車が去って行った後、次々と住人がやってきて、自分のゴミ箱を持って帰った。
皆、早朝のこの光景を家の中で見物しているのだ。
しかしたった1つだけポツンと残ったゴミ箱があった。
番地の番号が書いていたり、特徴のあるシールが貼られてあるのなら持ち主が分かるのだが、市から借りているものだし、大抵はどれも同じような外見である。
どうしたものかと思っていたが、相談した友達からは
「取り敢えず、取りに来るまで待てば良いじゃないか。それは貴女の問題ではない」
と返答が返ってきた。
そうやって放置して3日程経った。
やっぱり気になるし、大体路地はそれ程長くない。双方の道合わせても、せいぜい10棟くらいあるくらいだ。大抵はゴミ箱は見える場所に置かれてあるから、2日目放置の時に、散歩がてら見て回ると、1軒だけ、緑色のゴミ箱がない家があった。
恐らく、この家だろうと思うが、彼等がうちの家の前に佇んでいる自分達のゴミ箱を気付かないわけではないろうに、何故、探そうともしないのだろうか。
うちの前に置かれてあるのは、それ程問題ではないが、少々気になる。
必要だから市から借りているゴミ箱なのにな。
いやいや、第一、本当に彼等の物なのだろうか?
私だったら、ゴミ箱がなくなったら、慌てて探すけどな。
そして、放置されているゴミ箱を見付けると、その家の住人に確認を取ると思う。
散々悩んだが、取り敢えず、この家の人に聞いてみようと夕方にインターフォンを鳴らした。
まず倅より少し大きいくらいの少年が出てきた。
恐る恐る尋ねてみる。父親らしき人も出てきて、それから威勢が良い母親も出てきた。顔立ちやドイツ語のイントネーションからして、移民でやって来たトルコ系だと思う。
「うちには緑色のゴミ箱はある。間に合ってますから! お宅の家の前に置かれたゴミ箱はうちには関係ない」
と言われてしまった。
そうか、私の勘違いなのか。。。
そしてスゴスゴと自宅に帰った。
友達に話すと
「あんたは人が良すぎる。それはあんたの問題ではない。取りに来ない持ち主が悪いのだから、わざわざ探す必要なんてない。自分だったら、ずっと自分の家の前に置かれてあるのが気になるなら、市に電話をして取りに来てもらう」
と呆れられてしまった。
個人的には、持ち主は急に自分のゴミ箱がなくなって困ってないのかなと思って、それで探したんだよね。
でも、そんな風に思う人はあまりいないのかな。
相談した全ての人から
「わざわざ確認する必要もないのに、どうして聞いたの?」
と言われてしまった。そういうものなんだろうか。
なんとなく、そんな事を考えていると眠れなくなり、気が付いたら、鬱っぽくなっていた。(実はもう1つ、嫌な事があったが、ここでは記事に関係ないので省きます)
3日目の朝、少し遅く出勤する夫に、事情を説明してみた。
夫は笑って
「まあ、じゃあ、探してみようか」
と言ってくれ、再度路地を歩く。
やっぱり1軒だけ、緑色のゴミ箱がない家があった。昨日、つっけんどんに追い返された場所だ。
「この家の人に昨日聞いてみたけど、違うって言われたから、ここではないんじゃないかな」
インターフォンを鳴らしてみたが、今度は誰も出なかった。不在らしい。
「じゃあ、夜にでももう1回聞いてみるよ」
あんまりやり過ぎると、不振がられるし、いい加減しつこいって言われるんじゃないかなと話したが、でも君は気になるんだろ。違うのなら、それで良いわけだし。と言われてしまった。
その夜。
夫はうちに入る前に、ゴミ箱をその家に持っていき、事情を説明したらしい。
娘さんが出てきて、威勢の良い母親が出てきて、父親が出てきて、それから最後に倅より少し大きいくらいの息子さんが出てきて、ワーワー言いながら
「本当だ、うちのゴミ箱だ」
と驚き、そして夫に、わざわざ届けてくれてありがとうとお礼を言ったそうだ。
どうやら、彼等は回収車の一件を知らなかったらしい。
夫婦共働きでゴミ出しをして早くに家を開け、子供達も学校に行っていて、その日も不在だった。
いつも夕方家に帰ってから、家の前に出したゴミ箱をまた戻すのだが、その日は緑色のゴミ箱だけがなかった。
私達の家の前に緑色のゴミ箱が1つだけあったのは気付いてはいたが、まさか自分達の物だとは考えてもみなかったという。そりゃまあ、そうだよね(~_~;)
きっとゴミを回収した者が、うちのゴミ箱まで間違えて持って行ってしまったのだろう。と思っていたらしい。
「昨日も女の人がやって来て、ゴミ箱の事を聞いてきたけど、うちにはちゃんとあると話したのだ」
と言うものだから、夫は
「ああ、それはうちの妻です。妻から事情を聞いて、こちらにもう1回確認したくて、自分はここにいるのですから」
と返したそうだ。
「どうも事情が飲み込めてなくて、3回くらい説明をして、やっと分かってくれたよ」
と夫が事の顛末を笑いながら教えてくれた。
ゴミ箱が持ち主の元に戻れて良かったと安堵したと同時に、自分の問題ではないとして、知らないふりをしておくべきだったのか? どちらが良かったのか分からないけれど。
今回のお節介はやって良かったのだろうけど。。
偶然、そこに居合わせた時、どういう行動を取るのが正解なんだろう。
「自分の問題ではないから関係ない」
として、取り合わない方が良いのだろうか。
「ここにあると他の人が迷惑するから」
「持ち主がなくなると困るだろうから」
「助けてあげよう」
と行動を起こすべきなのか。
小さな善意が押し付けにならなかったら良いのだけれど。
その正義感故に、犯罪やトラブルに巻き込まれてしまいがちな世の中だから、判断に困る。