倅は小さい時、よく行方不明になり、私達を心配させていた。
これは自閉症あるあるの特性のようだが、とにかく、手をつないでいても、一瞬の隙をついていなくなるのだ。
そういうタイプのお子さんを持っている人なら、きっとご理解頂けるであろうが、幾ら気を付けていても、いなくなってしまう。ハーネスを買いたいと何度も思った。
いなくなった場所を列記してみると
・ミュンヘン中央駅
・夜のクリスマス市
・BMW博物館
・放課後の補習校
・室内遊技場
・近所のアイス屋までの道のり
ざっと思いつくだけでも、これだけはある。
夜のクリスマス市なんかは、蛍光色の目立つベストを着させ、赤白のサンタ帽まで被せていたのに、見失った。
娘と必死になって探していたら、知らない若いお兄ちゃんが
「もしかして、子供を探してる? こういう恰好していたか?」
と聞いてくるではないか。彼のガールフレンドに抱っこされ、倅はキョトンとした顔で私を見つめていた。
「ばいばい、倅君」
と彼女は言う。どうやら、名前はちゃんと言えたみたいだった・・・。
ミュンヘン中央駅は、私と2人で補習校から家に帰る途中だった。
電光掲示板で時刻を確認していた時、一瞬手を放してしまったのだ。さっきまでいた子供がいない。この恐怖は言葉では言い表せない。
インフォメーションに行き、倅の背格好を伝える。
それから必死で探す事20分。
フラッと別方向のプラットホームから現れた。
もう大号泣の嵐だ。
一緒になって探してくれた人やインフォメーションのお兄さん達が、
「良かったね! もう二度と手を放しては駄目だよ」
ともらい泣きしながら言ってくれた。
とにかく人通りの多い大きな場所で忽然といなくなるので、毎回生きた心地がしないのだ。
放課後の補習校も、しょっちゅういなくなっていた。
本人曰く、つい衝動にかられて、そのまま突っ走ってしまうらしい。
真夏日に、近所のアイス屋で落ち合う事になった時は、一本道なのに、何故か会えなかった。それで倅は一度家に帰り、娘から再度聞いて、もう一回アイス屋に向かったようだ。
こういう時、GPS機能がついた携帯でもスマホでも持たせたいと痛感する。
会えた時、話を聞いたら、前日に怪我をした時に貼った絆創膏が取れそうになっていたので、ゆっくり歩いて来たそうだ。ガックリ脱力したのを覚えている。
そうやって、いつも親を心配させている倅だが、一度私が時間割を間違えてしまい、1人で帰宅してきた事があった。
そろそろ倅を迎えに行くかと用意をしていた矢先、呼び鈴が鳴った。
ドアを開けると、まさかの倅が立っていて、私を見ると泣き崩れた。
どうやら私が校門付近にいないから、心配して帰ってきたらしい。しかも呼び鈴を鳴らした時、すぐには出られなかったのもあり、彼はもしかしたらタイムスリップして、ここには家族はいないんじゃないかとすら思ったようだ。
申し訳ない事をしたなあと猛反省した。
しかしこれを機に、そろそろ自分で帰宅をさせても良いかもと思い始めた。
友達とも少しずつ一緒に帰れるようにもなってきているし、自立の第一歩になるかもしれない。
なので、毎日聞いてみる。
倅が希望したら、その日は1人で帰るように取り決めている。
それでも今迄の経緯から、毎日時間になるとドキドキしている。
私もまた子離れが必要となってきた。