娘からはもう小さい頃から随分クラスメートの武勇伝を聞いてきた。
特に男子の話は伝説に残るものが多く、西原理恵子先生の『ああ、息子』に負けないくらい面白い話が聞けれて、それはそれは楽しかった。
その武勇伝はギムナジウムに行っても健在のようで、困り者の倅を持つ身としては大いに励みになっている。
チェス部の一つ上の先輩が、お菓子のポイントシールをおでこに貼っていたらしい。本体のお菓子は彼の胃の中に収まりはしたものの、余っていたお菓子を娘や後輩達に振舞ってくれたそうだ。
「僕の事をミスターなんとか(お菓子の名前)と呼んでくれ」
だそうで、娘がお菓子のお礼にと飴をあげようとしたら
「その必要はないよ。だって僕はミスターなんとか(お菓子の名前)だから」
と、よく分からない理屈をこねて断ったらしい。
ところで何気なく娘のジーンズを見ると、膝の辺りに、ヘアゴムが糸に絡まってくっついていた。それを鋏で切ると、娘に
「わざとやっていたのに!」
と怒られてしまった。そしてまた器用に糸に絡めてしまった。
皆の反応を見るのが楽しいのだそうだ。大抵は、目線が一瞬下にいくが、その後は見なかった事にする人が多いらしい。
しかし仲の良い友達は、一応、くっついていると教えてくれる。娘が面白いでしょ?と言うと、変だという反応が返ってくるそうで、それが楽しいらしい。
「お母さんは、隣に座ってるトルコ人の〇〇ちゃんと同じだよ。鋏で切りたくて仕方ないみたいで、それを死守するのが大変なんだから」
そうだろうね。私も切りたくて苛々するよ。
どうせ洗濯する時に外れるだろうから放っておいたら、その前に切れた。というか、娘の不注意で切れてしまった。
娘の落胆は酷かったが、3分後にはケロリとしていた。
それで何となくではあるが、チェス部の先輩がおでこにシールを貼っていたのは、皆の反応が見たかったのかもと思ってしまった。
まあ、類友というか、似たようなタイプが同じ場所に集うものなのかもしれない。